文法は絶対です。
文法をマスターしなければならない理由は、その方がはるかに楽だからです。
文法をやらずに済む方法はないわけではありません。その代り、一日、少なくとも10時間は勉強してもらいましょう。それでもたりないかもしれません。
円地源氏と言われる、『源氏物語』の口語訳で有名な、作家円地文子は、有名な国語学者上田満年博士(東京帝國大學教授)のお嬢さんでした。円地さんは、小学校のころから『源氏物語』を何回も読んでおられたという有名な話があります。仮にそういう生活ができれば、文法などわからなくても古文をマスター出来るかもしれませんが、他の科目もあります。そういう生活は出来ません。私も同じです。文法が分かったからこそ、古文が読めるようになりました。
文法のマスターのコツは、次の通りです。
1 用言活用を完璧にする。
用言活用は、数学でいうと、掛け算九九です。公立の小学校に通っていた人は、九九ができないクラスメートを見たことがあるかもしれません。そういう人のほとんどが、全然できないのではなく、八の段の一部が曖昧だなど、九九のごく一部ができません。では、大体できればいいかというと、そういう生徒さんは算数が壊滅的に苦手です。
用言活用も同じことです。一つの古文の大問を解く際に、この用言が何形であるかは、5回10回と判断しなければいけません。考えれば何とかわかるでは、ダメです。「あ・い・う・う・え・え」(四段活用)などと口で言って1分、紙に書いて4分以内、絶対に間違いなしを鉄則にしてください。
なお、用言活用は、忘れます。私は、高校~浪人の受験生時代に二回、大学時代は国文でしたが、先生はそんな基礎までチェックしてくださらないので、もう一回、大学院入試の時に一回、現役生の塾に勤めるときに、採用試験対策に一回と、覚えているだけで五回覚えました。今、覚えているのは、毎年、予備校で皆さんに教えるからです。偉そうに「このくらいは、常識だ!」などと吠えています(笑)が、忘れそうになったころに、教えるから記憶が強化されると(笑)。皆さんも、何回も覚え直すつもりでいてください。
2 用言活用を、助動詞に応用する。
実は、用言さえ覚えれば、後は暗記することは、ぐんと少なくなります。
助動詞に関していえば、本当に暗記が必要なのは、<ず><き><まし>くらいでしょう。後は、法則を知れば整理可能です。
3 助動詞活用の理解方法
皆さんは、国語の教科書や古語辞典の後ろの方に載っている助動詞活用表を見て、覚えようとした経験があると思います。目が回るほど複雑です。センター試験や二次の古文に対応するためにマスターしなければならないものですが、あの活用の真の意味を教わった人は少ないのではないでしょうか。
たとえば、推量の助動詞<む>は、未然形、連用形、終止形、連体形、已然形、命令形の順に、
○・○・む・む・め・○
と書かれています。
○とは何でしょうか。○とは、ないという意味ではなく、未発見という意味です。そして、「<む>の連用形は発見されているかいないか、答えよ。」などという問題は出ません。もっとも大学院の入試では「「ま」は、<む>の未然形であるという説があるが、どのように考えるか。意見を述べよ」という問題が出題される可能性があります。しかし、皆さんには当面関係がありません。だから、○は覚える必要はありません。
ところで、この<む>の活用は、何かに似ているとは、思いませんか?
そうです。ま・み・む・む・め・めという四段活用です。その一部が抜けた形です。
また、
<けむ>は、過去推量の助動詞とはよく言ったもので、<き><む>が短縮されて、<けむ>になったものです。
現在推量<らむ>も、同様です。もともと、「あらむ」という形でしたが、最初の「あ」の音が抜け落ちて、<らむ>となったものです。
つまり、<けむ><らむ>の下の「む」は、<む>と同じです。だから、<む><らむ><けむ>は、四段活用をすると考えていいです。
まるで、中学入試の鶴亀算のようなものです。連立方程式は中学の範囲ですから、小学校では面積図などで教えられていますが、中学の範囲を使った方が楽です。それと同じように、助動詞の語源は、語誌という大学の国語学の一分野の内容ですが、大学レベルの内容を応用したほうが、楽でありしかも本質的であるということが、古文の世界には多く見られます。
「し」という語尾も同じです。これは、形容詞に活用させるための機能です。現在でも、「××い」は、「××っぽい」という意味になります。「ダサい」「キモい」などの若者の流行語も、「ダサかったら」「ダサくて」など、形容詞の活用がある上、「ダサ!」という語幹の用法まであります。
ですから、「し」や、その濁った形である「じ」が付いた助動詞は、無変化の<らし><じ>、特殊型活用の<まし>以外は、全てが、形容詞型に活用します。
こうした、型をマスターすると、古典文法は簡単です。
大学入試には、さまざまな極意があります。余計な暗記を避けて、原理から理解するというのは、重大な極意です。どうか効率的に勉強して、勝利をつかんでください!