皆さんは受験生ですから、時間がありません。
しかし、高三の夏頃までは、できるだけ良質な本を読むべきです。本を全く読んでいない人なら、浪人生も夏までは本を読むべきだと思います。
現代文の問題は、海上に姿を現した氷山のようなものです。海面の下には、海上に見える六倍もの氷が沈んでいますが、現代文も、本文には一々書かれていない常識や共通理解などを前提にして記されたものです。常識や共通理解をあらかじめ知っておかないと、現代文は読めません。
数冊で効果がある良質な本に絞って、短時間で効果を上げてください。
1 新書レベル以上の本を読む。
センター試験も、難関校(私立文系でいうとmarchレベル以上の大学)も一流の評論が出題されます。簡単な本を読んでも無意味です。
たとえば、
大江健三郎『ヒロシマ・ノート』
丸山真男『日本の思想』
高階秀爾『名画を見る眼(正・続)』
林武『美に生きる』
加賀乙彦『死刑囚の記録』
加藤周一『日本の庭』
安岡章太郎『アメリカ感傷旅行』
河野一郎『翻訳上達法』
千野栄一『外国語の学び方』
会田雄次『アーロン収容所』
大塚久雄『社会科学の方法』『社会科学における人間』
川島武宜『日本人の法意識』
土居健郎『甘えの構造』
阿部勤也『世間とは何か』
戸部・野中他『失敗の本質』
谷崎潤一郎『陰翳礼讃』『文章読本』
渡辺 ・ 広渡・甲斐・小森田『日本社会と法』
福田歓一『近代の政治思想』『近代民主主義とその展望』
小森陽一『心脳コントロール社会』『出来事としての読むこと』
中島義道『孤独について―生きるのが困難な人々へ』『ひとを〈嫌う〉ということ』『私の嫌いな10の人びと』『ウィーン愛憎』
大森荘蔵『流れとよどみ―哲学断章』
立花隆『宇宙からの帰還』『脳死』『臨死体験』
福岡伸一『生物と無生物の間』
本川達男『ゾウの時間ネズミの時間』
時実利彦『人間であること』
鈴木光太郎『オオカミ少女はいなかった・心理学の神話をめぐる冒険』
森嶋通夫『イギリスと日本』
大山正『色彩心理学入門』
中村雄二郎『術語集』『臨床の知とは何か』
(は、比較的読みやすいもの)
あくまでも一例ですが、このような内容に定評がある本を読むことです。
2 読書のコツ
意外と知られていないコツを箇条書きにします。
本は本屋にあるとは限らない。
上記のリストは、誰もが認める定評があるものですが、絶版本もちらほらあります。amazonなどで探すか、図書館に行くのがいいでしょう。
ジャンルの偏りは気にしない。
たとえば、国際関係に興味がある人が、アメリカについて5冊の本を読んだとします。その5冊に内容がある限り、共和制、民主主義、自由貿易体制、多国籍企業、差別、移民、言語、二次大戦、イスラム教、ロビィスト、プロテスタント、金本位制、原子力問題…とさまざまな有益な知識が得られるはずです。
合わないと思ったら、すぐに投げ出す。
時間がない皆さんにとっては、大切なことです。映画なども同じですが、九回空振りしても、一回、心に残り考えさせられるものに出会えばいいです。
一気に読む
そうしないと内容が頭に入りません。
Wikipedeiaを利用する。
wikiは正しいことが書いてあるとは限りませんが、影響関係について書かれています。たとえば、大森荘蔵『流れとよどみ』を読んで、感銘を受けたとします。wikiの大森荘蔵の項目を読むと、ウィトゲンシュタインの影響を受けて、野家啓一、藤本隆志、野矢茂樹、中島義道を育てたとあります(その通りです)。それなら、野家啓一の『科学の解釈学』という本を読んでみようか…と、幅を拡げることができます。